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2話 レティアの特異な成長

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-06-21 09:00:00

 魔王の体は、かつての力を失い衰弱しているはずだった。しかし、その姿にはなおも圧倒的な威圧感があった。鋭い牙は光を受けて鈍く輝き、その巨大な角は洞窟の天井を押しつぶしてしまいそうなほどに屈強で異形だった。傷だらけの体からは黒い蒸気が立ち上り、見る者に抗えぬ恐怖を植えつける。

「ひっ……!」レティアの声が震え、幼い手が無意識に動いた。その恐怖に突き動かされるように、無詠唱で次々と火球(ファイアボール)が放たれる。炎が洞窟の闇を一瞬照らし出し、魔王の全貌を浮かび上がらせた。

 ――それは、彼女の両親の仇として語られてきた魔王そのものだった。霧のように重く漂う瘴気、弱り果ててはいるもののなおも圧倒的な威圧感。それをひと目見ただけで、レティアはその存在が何であるかを確信した。

 しかし、魔王はそのまま力尽きたように倒れ込むと、黒い霧のような体は光の粒子となり、空中に舞い上がりながらキラキラと霧散して消え去った。まるで彼女の存在を嘲笑うかのように、魔王の最期は静かで儚かった。

 その瞬間、親の面影や温かな記憶はないものの、両親の仇を討てたという喜びが、レティアの胸に小さな火を灯した。しかしその喜びも束の間だった。突然、頭の中で軽快な音が鳴り響く。『ピロン♪ ピロン♪ ピロン……♪』と、頭の中で繰り返される音に彼女は動揺した。

 洞窟を飛び出した頃には、頭の中で鳴り続ける音に気を取られ、先ほどの達成感も喜びも冷めていた。それに、祖父母との「家の周りから出ない」という約束を破ってしまったことを思い出し、この冒険を秘密にしておこうと心に決めた。

 家へ帰り、冷静になって考えてみると、幼い頃から育ててくれた祖父母こそが本当の父と母だと感じた。「うぅ〜ん……親の仇を……討てたのは嬉しかったけどなぁ。」と、もやもやした感情を抱えながらも、頭の中の音の正体が気になり始めた。

「喜びの邪魔する音がうるさいし……むぅ……。なんなの、この音……。魔王の呪いなのぉ?」と、レティアは小さな拳を握りながら首を傾げる。最初は恐怖や驚きで焦り、怯えていたが、次第にその感情は「うぅ……うるさぁ〜い〜!!」とイライラへと変わっていった。一日中その音は頭の中で鳴り響き、夜も眠れず、耳を塞いでみても、その音が消えることはなかった。

 翌朝、耐えかねたレティアは怒られる覚悟で祖父母に相談することにした。

「じぃーじ、ばぁーば、あのね……頭の中で、ピロンって鳴るの……これ、なんだろ? 呪いなのかなぁ……?」

「レティー、また……森の中へ入ったのかい? 約束を守らない、いけない子だね……」と、ばぁーばは呆れつつも優しく微笑む。

一方、じぃーじは静かに頷きながら答えた。「それはな、きっと『レベルが上がった音』だね。魔物を倒すと、強さの基準となる“レベル”というものが上がるんじゃよ。」

 じぃーじの説明を聞いたレティアは目を丸くして驚きながらも、どこか嬉しそうな表情を見せるのだった。

「レベル……? 強さの基準?」レティアは小首をかしげ、不思議そうに尋ねた。

 祖父は優しく頷きながら説明を始めた。

「そうだ、レベルというのは人や魔物の強さを測る基準のことじゃよ。レベルが高くなるほど、力や素早さ、魔力といった能力値も上がっていくんじゃ。」

 ——レベルと経験値の仕組み

 村人の一般的なレベルは3から5程度だ。彼らは魔物と戦うことを避け、平和な生活を送ることを選んでいたため、レベルもその程度に留まる。しかし、魔物と戦うことを生業としている冒険者たちは、そのレベルが30から50ほどに達することが多い。中でもレベル50に達する者は高ランク冒険者とされ、数少ないエリートとして広く認められていた。

「冒険者たちは、このレベルを基準にしてランク分けされるんじゃよ。高ランクになるほど、難易度の高い依頼を受ける資格を得られ、得られる報酬も増えるんだよ。」祖母が補足するように教えてくれた。

レティアは、山奥の村で祖父母のもと人目を避けて育てられていたため、一般的な知識や常識が抜けた状態で成長していた。それでも祖父母は彼女がまだ5歳であることを考え、これから徐々に学んでいけば良いと優しく見守っていた。

 ——レティアの異常なレベル上昇

 しかし、レティアのレベルが異常に上昇していた理由には、驚くべきものがあった。それは、かつて世界を震え上がらせていた魔王を彼女が単独で討伐したことになっていたからだ。

 通常、強力な魔物と戦う際には冒険者たちがパーティを組み、協力して討伐に挑む。討伐に成功すれば、それぞれの活躍に応じた経験値が自動的に分配される仕組みになっている。しかし、全員が死亡してしまった場合、経験値の分配は行われず、最後に討伐を達成した者が全ての経験値を得ることになる。また、自分より遥かに強い相手を単独で討伐した場合、得られる経験値には**「単独ボーナス」**が付与されることもある。このボーナスは、敵との力の差によって決まり、1.5倍からさらに高くなる場合があった。

 レティアの場合、彼女の両親のパーティが魔王を弱らせ撃退したものの、最終的には全員が命を落としてしまったため、経験値の分配が行われなかった。結果、魔王を討伐したのはレティア一人という扱いになり、膨大な経験値が一挙に彼女へと与えられたのだった。その上、魔王のような格上の敵を討伐したことによる単独ボーナスが適用され、経験値はなんと通常の50倍に達した。

 この結果、レティアは、まるで世界を震え上がらせた魔王50体を単独で討伐したかのような膨大な経験値を得ることとなり、彼女のレベルは驚異の300を超えていた。

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